SCIENCE

量子通信について

量子通信について説明する前に、そもそも「量子」とは何なのかをご説明します。量子とは、具体的には電子や光子などのことを指しますが、これらは、我々が想像もできないような特殊な性質を持っています。たとえば、「重ね合わせ」という性質により、1つの量子が、同時に異なる2つの性質を満たすことができます。更に、量子には、複数の量子特殊な相関を持つ「量子もつれ」という性質が存在します。この性質を利用すると、手元の量子と同じ状態を、どれだけ遠くはなれた場所であっても、再現することができます。どれだけ遠く離れていても、状態を伝えられるため、「量子テレポーテーション」と呼ばれています。

これらの一見奇妙な性質を使うことで、量子コンピュータや量子通信は実現しています。量子コンピュータは「量子を制御」することで、量子ビット値(0か1だけでなく、それらの重ね合わせ)を巧みに表現したり、計算処理を行ったりしますが、量子通信では「量子を送る」ことで、遠隔地で全く同じビット値の共有や量子ビットの伝送を行います。

LQUOMでは長距離の量子通信実現に向けて、最先端テクノロジーの社会実装を目指しています。現在のインターネットがビット情報をグローバルに送れるのと同様に、「量子インターネット」で量子ビットを送るためには、量子を生成するシステム、量子を受信するシステム、量子を中継するシステムが最低限必要です。LQUOMでは、これらのシステムを実現するコア技術を保有しており、特に中継器に関しては、オンリーワンと言える技術を保有しています。その一部を、以下でご紹介します。

オンリーワンの
アプローチ

LQUOMでは、量子もつれと量子メモリを採用したシステムを開発しています。量子もつれについては、従来のQKD実証実験にて、世界中で様々なグループが携わっていましたが、いずれも短距離に留まってしまっていました。LQUOMでは、量子もつれに注目し、長距離のファイバ伝送通信に特化(波長1.5μm)させるだけでなく、スペクトル幅の狭窄化(1MHz以下)にも成功し、量子メモリを用いた中継を可能にします(短距離通信であれば、量子メモリ無しで通信可能です)。
量子メモリについては多数の波長チャンネルを生成する手法を日本で初めて採用し、波長多重量子通信による大容量量子通信ネットワークへの応用が期待されています。

LQUOMの量子中継器システムは、長距離化が可能というだけでなく、ゆくゆくは量子コンピュータの一部としても使えるものを目指しています。Distributed Quantum Computingというアプリケーションが提案されており、別固体の量子コンピュータ同士を、あたかも1台の機器として活用できる技術ですが、そこでは量子もつれの共有が必要不可欠となります。LQUOMの持つテクノロジーにより、量子もつれを様々な量子デバイスに適用することが可能です。量子が情報として飛び交う様はまさに「量子インターネット」という全く新しいインフラを意味します。
そんな量子インターネットを目指して、LQUOMでは今後も、オンリーワンのテクノロジーを開発し、早期の社会実装を目指します。

コア技術について

量子中継器の実現には、量子通信用の光子を発し光ファイバを通じて量子状態を送る量子もつれ光源、量子状態を一時保存しておく量子メモリ、そして光源とメモリを結ぶ周波数安定化等のコア技術が必要です。つまり、コア要素技術は、①量子光源、②量子メモリ、③周波数安定化であり、これらのインテグレーションが、量子中継器の要となります。LQUOMは、これら全てのコア要素技術を保有しています。

量子光源

量子もつれ光源は、量子もつれにある2つの光子を同時生成するデバイスです。発生光子を量子メモリと結合し量子状態保存・再生を可能にするには、狭いスペクトル幅をもつ量子もつれ光源である必要がありますが、私達は光共振器導入によりそれを可能にしました。量子中継器間の10km程度以上の距離を低損失で伝送するためには、通信波長1.5ミクロン程度での発生が求められ、われわれは量子メモリと高効率で結合しえる狭線幅通信波長量子もつれ光源の開発に初めて成功しました。

量子メモリ

量子状態を一時保存する量子メモリは、波長多重や時分割多重といった通信レートの向上に資する性能が求められます。その多重化メモリとしては、希土類添加物質を用いることが可能です。希土類添加物質の吸収スペクトルに、メモリ領域(10MHz)を作成し、量子状態を保存・再生するシステム開発を行い、保存・再生機能の開発に成功しました。

周波数安定化

周波数安定化システムは、量子メモリと光源を安定的に結ぶために不可欠な要素です。メモリの保存用遷移周波数は、kHz-MHz程度の非常に細い幅をもつため、光源・波長変換のかすかなゆらぎが、効率を劇的に低下させてしまうからです。我々は光源とメモリを安定に結合できるに十分な長時間安定度の達成を果たし、周波数安定化や波長変換システムによる統合を通じ、通信波長量子光源と量子メモリの結合システム開発に成功しました。それぞれの要素は、全体を通じて、シームレスな接続が可能な設計を前提として開発され、今後光ファイバを介した長距離実証へと進む予定です。